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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)497号 判決 1980年1月23日

控訴人

森田文吉

右訴訟代理人

宮本亨

被控訴人

森田栄一

右訴訟代理人

藤沢彰

主文

一  原判決を左のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し原判決添付物件目録一記載の土地につき横浜地方法務局戸塚出張所昭和四四年六月二七日受付第二三二七五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、各その一を控訴人、被控訴人に負担させる。

事実《省略》

理由

<前略>

五控訴人の賃貸借又は使用貸借の主張について検討する。

<証拠>を総合すると次のとおり認定することができる。

被控訴人は兄、控訴人は弟の関係にあり、被控訴人は東京都に住み、控訴人は勤務の関係で昭和二三年頃から同四七年一一月頃まで北海道江別市に住んでいたものであり、昭和四九年秋ころまで兄弟仲がよく、互に援助し合い、特に控訴人は被控訴人又は同人の経営する株式会社交宜に対し昭和二四年頃から同四七年頃までの間度々金員を融通して被控訴人を援助してきた。本件金一八〇万円の貸金もその一つであつたが、これは金額も大きく控訴人の妻に対する被控訴人の手前もあつて、被控訴人は先に自己が買入れた本件土地をその担保として控訴人に提供することにしたが、被控訴人は将来控訴人が本件土地を買いたいというのであれば、適当な価格でこれを控訴人に売渡してもよいと考え、またその際右金一八〇万円を清算するつもりであつた。控訴人もまた本件譲渡担保契約成立の頃ゆくゆくは本件土地を買いたいという意向を被控訴人に示したので、本件借受金債務について被控訴人は本件土地に対する抵当権設定の方式をとらず譲渡担保の方式を選んだ。

一方、控訴人は、いずれ北海道の勤先を退職し、北海道から引あげて東京都近辺に住もうと考えていたので、昭和四六年頃被控訴人に対し、本件土地を将来買いうけたいが、それまで右土地を使わせて欲しい、この土地上に居宅を建てて住むことにしたい、と被控訴人に申込み、将来右土地を控訴人に売渡す考えであつた被控訴人は快くこれを承諾した。

本件土地は、これを被控訴人が訴外和泉田から買受けた当時一部しか宅地造成されておらず、被控訴人はこれにつき宅地造成をしなかつたので、控訴人は昭和四六年一二月頃から約一年位かかつて右土地の残部全部の宅地造成を坪当り約金四万円の費用をかけて行つた。また、控訴人は昭和四七年一〇月頃から本件土地上に自己の居宅(原判決添付物件目録二記載の家屋)の建築を始め、翌四八年九月頃これを完成した。被控訴人は右の宅地造成、居宅建築につき異議を述べず、むしろこれに協力的であつた。

控訴人は昭和四七年六月頃江別市の勤務先を退職し、同年一一月頃から本件土地上の右居宅(当初は未完成のものであつた)に住んで本件土地を無償で使用しており、右土地についての本件移転登記以後これに対する公租公課は控訴人において支払つている。

控訴人は昭和四八年、九年頃一時前記株式会社交宜に勤め、その頃はまだ兄弟仲は悪くはなかつたが、その後本件土地の売買の話がまとまらず逆にこれがこぢれ、鎌倉簡易裁判所の調停においても右売買価格につき当時の値上りした時価、一平方メートル当り金六万円を基準とする被控訴人の主張と控訴人の主張とが折合わず、不調となり、これを契機に兄弟間の軋轢、対立が深まるにいたつた。

かように認めることができ、この認定に沿わない原審及び当審における控訴人本人の各供述は採用することができず、他にこの認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実からすると、控訴人の本件土地の使用につき当事者間で賃料の約定がなされた形跡のないことが明らかであるから、控訴人の賃貸借の主張は理由がなく採用できない。

控訴人の使用貸借の主張については、前記認定のとおり、被控訴人は、控訴人が多額の費用をかけて本件土地名宅地造成し、家屋を建築することを許諾したばかりか、むしろこれに協力的であつたものであり、控訴人が右家屋に居住するようになつてからも地代を徴することもなく、本件土地の使用占有を許容してきたものであつて、右の事実及び控訴人の被控訴人に対する前記の従前からの資金援助、両者間の兄弟としての情宜関係に鑑みると、遅くとも控訴人が本件土地の宅地造成を開始した昭和四六年一二月頃被控訴人、控訴人間で、本件土地につき、同土地上に控訴人が居宅を建築所有してこれに居住し、同土地を使用する目的の、期間の定めのない使用貸借契約ができ、これに基き被控訴人から控訴人に同土地の引渡がなされたとみるべきである。なお、この使用貸借については、将来控訴人が本件土地を買取ることが前提になつていたものではあるが、前記の事情に徴すると、右の売買の協議が両者間で整うまでという期限が明確に定められていたものと認めるのは相当でなく、右使用貸借は両者間に右売買契約がいまだ成立しない結果終了したものということはできず、控訴人が本件土地上の居宅(同物件目録二記載の家屋)を所有するという同土地の使用目的が終了するに足りる相当な期間、存続するものというべきである。<以下、省略>

(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

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